鬼滅の刃は貴船神社の神話をたどる(那田蜘蛛山の鬼と犬夜叉の妖怪)

上七軒提灯

The image superimposed on the demon of Mt.Natagumo seems to refer to Nishijin in Kyoto.
那田蜘蛛山の鬼に重ねられたイメージは、京都の西陣を指しているようです。

(この記事は、「鬼滅の刃」3巻、4巻、5巻、8巻、15巻、「犬夜叉」1巻、5巻、19巻、アニメ「犬夜叉」第13話、のネタバレを含みます)
 

前の記事で考察したように、無限列車編に登場するカナヲ、アオイちゃん猗窩座に重なるイメージは、神崎川を指すヒントになっていると考えることができそうです。

神崎川は淀川につながる川ですが、興味深いのは旧淀川には玉依姫命が遡上したことがきっかけで、貴船神社が創建されたという伝説が残されているところです。

「鬼滅の刃」立志編では、貴船神社の伝説に沿って、鍵となるイメージがちりばめられているみたいですよ。

この記事では、那田蜘蛛山の鬼たちについてまとめていこうと思います。

那田蜘蛛山の鬼が示す場所

鼓の屋敷での傷が癒えた炭治郎たちは、鎹鴉の指示に従って那田蜘蛛山を目指します。この山にいたのが下弦の伍・累でした。

通常、鬼は無惨のために群れることができない(3巻 第18話)とされていますが、累は唯一、それが許された鬼で、寄せ集めの鬼たちに家族ごっこを強制していました。

累を含めた那田蜘蛛山の鬼たちには、顔、体、着物などに「つなぎ団子」に似た模様が描かれていて、これが場所を示すヒントになっているようです。

つなぎ団子は京都の花街のシンボルマーク。なかでも、北野天満宮の東参道にある上七軒(京都市上京区)の紋章は、串に通した団子を五つ並べた「五つ団子」で、累たちの模様によく似ています。

その由来は、天正15年(1587年)に豊臣秀吉が催した北野大茶会で、御手洗団子を献上して大いに誉められ、御手洗団子を商う特権と公的な茶屋の営業権利が認められたことにあります。

「鬼滅の刃」でも、御手洗団子は鋼鐵塚さんの大好物と紹介されていて、重要な鍵になっていると考えることができそうです。(8巻 第69話末イラスト、15巻 第129話)

興味深いのは、花街を構成する置屋では、女将さんのことを「お母さん」、先輩の芸舞妓のことを「お姐さん」と呼び、置屋で共同生活を行う疑似家族がつくられているところです。

累のつくる疑似家族も、こうした花街の仕組みが重ねられているように見えます。

「犬夜叉」の妖怪が示すヒント

那田蜘蛛山の鬼たちが使う血鬼術には、「蜘蛛」と「繭」の二つの特徴があります。

こうしたイメージは、「犬夜叉」に出てくる妖怪と重なるところがあるようです。

累:大木も切り裂く鋼糸を使う。鋼糸の上を歩いて移動したり、蜘蛛の巣のように編まれた鋼糸を操って相手を切り刻む。(4巻 第29話)
逆髪の結羅:相手を切り裂く髪の毛を使う。張り巡らせた髪の上に立って攻撃を仕掛けたりする。(「犬夜叉」1巻 第6話)

蜘蛛の鬼(母):蜘蛛の糸を使って人や鬼を傀儡のように操る。(4巻 第28話)
逆髪の結羅:張り巡らせた髪の毛を操って、人を傀儡のように操る。(「犬夜叉」1巻 第6話)

蜘蛛の鬼(父):蜘蛛の頭に、人間の身体をしている。
蜘蛛頭:蜘蛛の頭に体は人間の姿をしている(アニメ版「犬夜叉」第13話)

蜘蛛の鬼(兄):人間の頭に、体は蜘蛛の姿をしている。
蜘蛛頭:人間の頭に体は蜘蛛の姿をしている。(「犬夜叉」5巻 第1話)

蜘蛛の鬼(姉):溶解の繭で人間を閉じ込めて溶かす。
蛾天丸:触れると溶ける毒繭に、人を閉じ込めて溶かす。(「犬夜叉」19巻 第5話)

別記事でまとめていきますが、「犬夜叉」には「鬼滅の刃」につながる「雷獣」、「風穴」、「かごめ」といった重要なキーワードが出てきます。
(別記事にまとめしだいリンクを貼っていきます)

那田蜘蛛山の鬼の血鬼術と「犬夜叉」の妖怪に共通するイメージは、こうした重要なキーワードに辿り着くためのヒントと考えることができます。でも、これとは別に、場所に関するヒントにもなっていそうです。

その手掛かりとなるのは、「犬夜叉」に登場する蜘蛛頭の妖怪です。その親玉はお寺の和尚に化けていました。

那田蜘蛛山の鬼と土蜘蛛伝説

上七軒そばの北野天満宮(京都市上京区馬喰町)の境内には、土蜘蛛由来の灯籠とされる小さな石灯籠があります。

土蜘蛛がすんでいたと伝わる七本松通一条にあった塚から発掘されたもので、この話の元となるのが「平家物語 剣巻」(成立年不詳)に出てくる「山蜘蛛」の伝説です。

鬼退治で有名な源頼光が瘧病(おこりやまい)にかかり、長らく伏せっていたところ、ある日、かすかな灯火の影から長尺なる法師が現れ、するすると近寄ってきて頼光に縄をかけようとします。

これに気づいた頼光は驚き、名刀・膝丸で一太刀を浴びせて撃退。渡辺綱(わたなべのつな)、卜部季武(うらべすえたけ)、坂田金時(さかたのきんとき)、碓井貞光(うすいさだみつ)といった頼光の四天王たちが法師の血の跡を辿っていくと、それは北野社(北野天満宮)の塚穴に続いているのでした。

掘り起こしてみると、穴の中には大きな山蜘蛛がいて、その山蜘蛛を討ち取ると、頼光を苦しめていた病がたちまちに癒えたといいます。

「法師」は広い意味での僧侶のことで、仏法に通じ、衆生を導く師となる者のことです。

そして「和尚」は、修行を積んだ僧侶のことで、狭い意味では高僧やお寺の住職のことを指します。

「平家物語」に登場する山蜘蛛は、「長尺ばかりなる法師」と表現されていて、「背が高い」と解釈されることが多いみたいですが、「長尺」という言葉は身長に対してより、木材や鋼材などで「普通より長い」という意味で使われることが多いようです。

「犬夜叉」に登場する蜘蛛頭は、首や手足が異様に長い姿で描かれていました。「普通より長い」という言葉の意味からすると、「剣巻」の山蜘蛛は、「犬夜叉」の蜘蛛頭とイメージが重なりそうです。

そう考えると、「犬夜叉」の蜘蛛頭と共通点のある累も、ただの蜘蛛ではなく山蜘蛛のイメージにつながりそうです。累の特徴は、北野天満宮を指すヒントになっているといえそうです。

溶解の繭と西陣

こうしてみると、蜘蛛の鬼(姉)も場所を示すイメージが重ねられていそうです。

蜘蛛の鬼(姉)が使う血鬼術は、人間を閉じ込めて溶かしてしまう「溶解の繭」でした。

蜘蛛の中には、捕らえた獲物を捕獲帯という糸を使ってぐるぐる巻きにするものがいますが、これは相手の動きを封じるためのもので、繭とは少し違います。

繭を作るのはカイコガ科に属する蛾の一種です。「犬夜叉」の蛾天丸も、触れるものを溶かす毒繭を作る蛾の妖怪でした。

だとすると、蜘蛛の鬼(姉)が作る溶解の繭も、蜘蛛というより蛾のイメージが強いといえそうです。

那田蜘蛛山の鬼たちの模様につながる上七軒は、室町時代の火災で北野天満宮の社殿を修繕した際、残った資材を使って建てられた7軒の茶店から始まったといいます。西陣に近いことから、西陣の旦那衆の遊び場として、また社交場として栄えてきました。

蚕も蛾の一種だということを考えると、北野天満宮を含む西陣エリアがそのイメージに重なりそうです。

西陣エリアに散らばる鬼のイメージ

西陣は絹織物の産地です。

応仁の乱後、西軍本陣跡に織手が集まって織物業を再開したのが西陣織のはじまりです。養蚕や絹織物の技術は渡来系の秦氏から受け継いでいます。秦氏は稲荷大神を氏神として祀っていました。

稲荷大神の神使は白狐で、「鬼滅の刃」の狐面にイメージがつながるところが興味深いですよね。

この他にも、西陣エリアには累や蜘蛛の鬼(父)にイメージが重なる伝説もあるようです。

累のイメージに重なるのは、岩上神社(浄福寺通り上立売東入る)の大岩です。

この大岩は、もとは堀川二条付近にあったといいます。二条城築城の際に六角辺りに移されて、その後、後陽成天皇(第107代)の女御の一人、中和門院の御所の庭に移されました。

すると、夜な夜な啜り泣きとともに、「帰りたい、戻りたい」という声が聞こえるようになったというのです。

不審に思った女官が声のする池のそばに近づくと、見知らぬ子供が泣いているのでした。何者かと問うても泣くばかりで、そのまま暗闇に消えてしまうのでした。

女官から報告を受けた官吏が調べたところ、池の畔に据えられた大岩が泣いていることがわかりました。大岩はその後、真言宗蓮乗院の僧侶によって現在の地に祀られて怪異も止んだといいます。

累も子どもの姿をした鬼で、那田蜘蛛山の疑似家族は本当の家族を恋しく思う気持ちが生み出したものでした。

池の畔で泣いていた怪異と累の姿は重なりそうです。

参考 岩上神社 | 西陣千本商店街

蜘蛛の鬼(父)

蜘蛛の鬼(父)のイメージが重なるのは、「今昔物語」(平安時代末期)に収録されている、尼天狗です。

仁和寺の辰巳(南東)の方角に円堂というお堂があり、そのお堂は天狗がいるという噂で人々に恐れられていました。

ある夜、仁和寺の成典僧正がたった一人でこのお堂に参り、仏前で行法を修していると、戸の隙間から帽子を被った尼の顔が覗いているのに気が付きました。

僧正が不審に思っていると、その尼は素早く入ってきて、僧正のそばに置いていた三衣箱を奪い、堂の後戸から出て高い槻の木(つきのき、けやきの古名)の上に登ってしまいました。

僧正はこれを見て加持を行ったところ、尼は耐えきれずに木から落ちてきて、二人はしばらく三衣箱の引っ張り合いをしていましたが、尼は箱の片端を引き破いて逃げていきました。

尼が登った木は今でもあり、その尼は尼天狗だったと伝えられています。

伊之助に片腕を切り落とされて高い木の上に登っていた蜘蛛の鬼(父)(5巻 第36話)と尼天狗のイメージは重なりそうです。

参考 今昔物語集 巻20第5話 仁和寺盛典僧正値尼天狗語

このように、那田蜘蛛山の鬼たちには「蜘蛛」と「絹織物」の2つのイメージがあり、漫画のヒントや伝説から見ていくと、西陣エリアのイメージが重ねられていると考えることができそうです。

西陣は鴨川デルタのそばにあり、貴船神社の創建伝説にある玉依姫命の遡上につながっていきそうですよね。

この他、「犬夜叉」のヒントにある「逆髪」は、「鬼滅の刃」でも無限列車編にイメージが重なる姫路の三ツ山大祭や、遊郭編にイメージが重なる振袖火事の伝説につながる重要な鍵になっていそうです。

少し長くなりそうなので、「逆髪」については別記事にまとめていきます。